【保守基本編】情報システムを支える保守を知ろう

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この記事のポイント
  • 保守は事前に契約が必要

  • 保守でできること

    • 故障時の機器交換

    • 問い合わせ対応

  • 保守のデメリット

    • 毎年費用が発生する

    • 保守費用の変動がある

    • 利用してみないと保守ベンダーの良し悪しは分からない

ネットワーク機器の保守って実際のところ必要なのかしら?故障ってそんなに頻発しないし出番は少ないんじゃないの?

チャーチルさん

ポン先生

保守の役割は故障時の交換だけではないよ。でもどういった場面でどう使うのかは知っておいた方が良いし今日はそのあたりを勉強しよう。

本記事ではネットワーク機器の保守について勉強します。保守契約は営業に任せきりなエンジニアが多いかも知れませんが、ポイントは最低限押さえておくと今後の提案や構築でも役に立つので是非覚えておきましょう。

保守とは

保守契約について

サーバやストレージ等も同様ですがネットワーク機器を購入する際は大抵保守の契約をします。保守は最終的にはSIerが顧客と契約する必要がありますが、SIerはさらに保守サービスを提供する保守ベンダーとも契約します。保守ベンダーは機器購入元である販売店である事が多いです。

保守契約

ここで書いたのはあくまで一般的に多いパターンです。場合によっては顧客⇔保守ベンダー間、SIer⇔メーカ間での契約といったパターンもありメーカや機器によります。

また、保守は一般的には機器購入と同時に契約します。機器自体の費用は購入時に支払って終わり(イニシャルコスト)ですが、保守は契約期間中払い続けます(ランニングコスト)。

通常は1年単位での更新が多いですがメーカによっては3年、5年期間での契約も可能で単年契約よりも合計金額は安価になります。

ポン先生

途中で保守に入ることもできるけど、購入~現時点までの期間を遡った費用が必要な場合があるよ。

保守でできること

では保守契約すると何ができるのでしょうか。主に以下2点の内容があります。

保守でできること

1.故障時の機器交換

2.問い合わせ対応

何れも企業のインフラを支えるためには必須と言える内容です。例えば家庭用のネットワーク機器であれば買ってしまえば終わりです。(1年間はメーカ保証で初期不良交換サービスが大抵付きますが)普通は家庭で自由に使うのみで、もし「何か」あったら買い換えるという人が大半でしょう。

一方企業のネットワークでは「何か」が非常にクリティカルです。毎日・毎時・毎秒利益を出すためにユーザは働いています。もしネットワークが止まってしまうとその分だけ損失になります。そうならないように保守を利用してサポートを受けられる体制を整えています。

以降で具体的な内容を見ていきます。

故障時の機器交換

機器が故障してしまうと通信が止まり業務影響が出てしまうので、予め交換可能な体制を準備しておきます。具体的には保守ベンダーが交換用の機器を事前に在庫として確保しておきます。また、契約内容によりますがセンドバック保守であれば故障機の代わりに新機器を送ります。オンサイト保守であれば保守ベンダー作業員が現地で故障機器と新機器の交換作業を実施し故障機器の回収まで含めて行います。

大抵の人は保守と言えばこちらのイメージが強いかと思います。しかし単純に機器故障に備えるという意味では保守以外でもやりようがあります。それでも保守契約を結ぶのにはそれなりの理由やメリットがあるためです。

機器故障への対策

方法A:機器の冗長化
方法B:予備機運用

機器故障対応

以降では各方法の内容とそれらの課題について説明します。機器故障の観点で保守の必要性について確認します。

方法A:機器の冗長化

重要な機器(例えば全トラフィックが通過するコアスイッチやファイアウォール等)であれば通常は冗長化(2重化)します。1台故障時はもう1台で稼働するためその間に代替え機を購入し、故障機器と交換する方法です。

冗長化の仕組みが正常に動作している事が前提ですがこの方法であれば長時間ネットワークを止める事無く、保守無しで機器故障に対応することが出来ます。

しかし、結論としては方法Aはまず採用されません。ほとんどの場合で素直に保守契約することになるでしょう。

ネットワーク機器というのはそれなりの機種だと数百万円します。会社は通常来年度に使う予算枠を決め、その枠内で投資していきます。機器が故障したからといってすぐに数百万円の支出ができるかと言うと中々難しいケースもあります。

そんなときに保守に入っていれば急な支出も無く機器交換が可能です。ここで重要なのはそれなりの金額の場合に、それが計画的な支出か突発的な支出かという点です。

保守の金額は機器費用の〇〇%(大体10%~20%前後)という形です。要は高価な機器ほど保守費用も高額です。しかしその保守費用は見積もり時点で分かっているので、会社としては必ず発生する費用として来年度の予算に入れる準備が出来ます。

また、例え冗長化して故障時は切り替わっていても、その機器もいつどうなるか分からないので早急に復旧させる必要があります。しかし新たに機器を購入するという事は新たに契約を結ぶということです。金額や社内の手続きによって長短はありますが、いずれにしても時間がかかるため望ましくありません。

一方保守は既に契約済みで、いつ発動させるかだけの問題です。例えばオンサイト保守であれば作業時間帯の調整やビルの入館手続き等実務的な対応は多少必要ですが、最短では故障から数時間レベルで作業開始も可能です。早期復旧の観点でも非常に大きいメリットがあります。

メーカから出荷された機器の内、故障する機器より故障しない機器の方が圧倒的に少ないので保守契約しない方が金銭的には得をする可能性が高いです。しかし、ネットワーク機器はユーザが業務を進めるためのインフラです。万が一があった場合の損害が大きいため重要な機器であるほど必ず保守契約はします。

ポン先生

普通は保守費用よりも、障害を復旧出来なかった場合の損失の方が大きくなると想定するので、重要な機器は保守契約するという事だね。

重要機器の保守
  • 通常、重要機器は保守に入る
    • 突発的な多額の支出は会社にとって都合が悪い
    • 交換機器の手配に時間がかかる
    • 交換機器手配中は残り1台で稼働しており危険

方法B:予備機運用

冗長化するほど重要な機器で無い場合(例えば末端のスイッチや無線アクセスポイント等、影響を受けるユーザが少ない場合や移動すればユーザの業務が継続できるような場合)は、予備機を準備し故障発生時は設定投入+機器交換で復旧可能です。

予備機自体は事前に手配済みで手元にある状態なので方法Aのように機器の手配に時間がかかる懸念はありません。

予備機運用は実際にやっている会社はあります。ただし基本的には自前で初期設定するための最低限のスキルを持っていることが前提です。自前のスキルが無い場合、予備機に設定を入れて交換する作業をSIerに依頼すれば良いのでは?と思うかもしれませんが、それを準備なしで正攻法でやろうとすると、

  • 顧客:見積もり依頼
  • SIer:見積もりを作成・提示
  • 顧客:社内で必要な事務手続き(稟議など)
  • 顧客:SIerに発注
  • SIer:作業準備(設定ファイル確認、作業日の調整、作業計画書作成等)
  • SIer:作業実施

等々いくつかSTEPを踏む必要があります(要は通常の案件を依頼する際と同じです)。実際には顧客またはSIerの社内手続きが煩雑で時間を要するかもしれませんし、担当エンジニアの稼働調整で作業は数週間後になるかもしれません。

冗長化するほど重要ではないと言っても、復旧までに時間がかかるのであれば予備機の在庫を抱えるメリットは薄いです。そのため自前ですぐに交換できるのであれば予備機運用は一定のメリットがあります。
※そもそも復旧自体急がないレベルの機器であればそれでも可です。

一方上記は予備機運用の形態の話では無く契約の話なので、例えば機器故障時の費用や作業内容を決めておき迅速に作業できるようSIerと事前に合意しておく、契約は先に結んでおき作業でエンジニアが稼働したらその分を請求する等契約の仕方次第でやり方はあります。

個別の契約の仕方によってはSIerへ依頼出来なくも無いけど、基本的には自前で対応するのがシンプルだね。

チャーチルさん

重要でない機器の保守
  • 予備機運用が成り立つケース
    • 顧客が自前で交換するスキルがある場合
    • SIerに依頼+早急に対応可能な契約の場合
    • SIerに依頼+急ぎ復旧しなくても問題ない機器の場合
  • 予備機運用が成り立たないケース(保守契約する)
    • 上記以外のケース

問い合わせ対応

機器故障に関しては上記の通りですが保守契約の本当の価値は問い合わせ対応にあり、機器故障の観点だけで保守の契約可否を決めるものではありません。

問い合わせ対応のポイントは「メーカにしか分からない内容に回答してくれる」という点です。具体的には機器に不具合が発生した際の対応です。電源が入らない、全く反応しなくなった等明らかなハードウェアの故障であればすぐに交換の判断が付くのでまだ良いです。実際の運用では機器は動いているが一部の通信だけ止まってしまう、たまに遅延が発生する等々良く分からない事象が発生します。

そういった場合は保守窓口に問い合わせることで解決に向けて対応してくれます。具体的には以下のような対応が期待できます。

保守窓口でやってくれること

①機器詳細仕様の確認
②類似事例の照会
③切り分け方法のアドバイス
④ログの解析

①機器詳細仕様の確認

通常、機器の仕様や設定方法はメーカのドキュメントが公開されています。しかし、詳細な情報の全てが公開されている訳ではありません。そういった場合は窓口に問い合わせる事で回答してくれる場合があります。これはメーカしか知り得ない事なので保守契約が必須となります。

②類似事例の照会/③切り分け方法のアドバイス

窓口には日々顧客から様々な問い合わせが舞い込んできます。過去の同様の問い合わせ履歴から迅速に回答を得られる場合もあります(毎回イチから調べなくて良い)。他顧客で同様の事例があった不具合であれば同様の対応で早急に解決するかもしれませんし、具体的な確認ポイントや切り分けの手順が分かるケースもあります。

このあたりは保守窓口のスキルやナレッジ量に依存する所ではありますが、保守契約しているならば期待できるポイントでしょう。

④ログの解析

機器内部で起こっている事はある程度はSIerのエンジニアも把握は可能です。ただしOSの異常やハードウェア故障等機器の深い階層のログをチェックするのは現実的に難しい場合があります。

もちろん勉強すればある程度は見れますが、普段の業務もこなすエンジニアが1つの機器の勉強にそこまで時間を掛けられるかは微妙な所ですし、ある一定以上のレベルは保守に任せた方が効率的です。実際、機器故障やOSのBugの場合はログを根拠に保守窓口側で判断してもらう必要があるので、ログは早々に送付してしまった方が良いでしょう。

いずれにしても機器の深いログ解析を代行してくれる点で保守窓口のメリットは十分にあります。

不具合発生時、影響範囲にもよりますが言うまでもなく早期の解決が望まれます。自力解決できることに越したことはないですが、いざと言うときに頼れる所があることで運用の安定性も一段と向上します。

ポン先生

主に機器不具合時の話をしたけど、単純な仕様の問い合わせや、設定変更の方法が分からない時も教えてくれるから上手く使っていこう。

保守のデメリット

一方、保守にもデメリットはあります。

保守のデメリット

①毎年費用が発生する
②保守費用の変動がある
③利用してみないと保守ベンダーの良し悪しは分からない

①毎年費用が発生する

これは当たり前ですが、契約している限りは費用がかかります。安心を買っていると言えば聞こえは良いですが、機器台数が増えると保守費用だけでも馬鹿になりません。実際は保守契約しても故障や問い合わせ等なく、数年後に後続機へ交換されて終わる機器も多いので感覚的にはもったいないと思うかもしれません。

保守は掛け捨て型の保険のようなものです。保険は有事の際に深刻なダメージを負わないために契約しますよね。会社は保守契約するorしないでどれだけ得をできるかのゲームをやっている訳ではなく、必要投資として保守契約します(得するゲームはあくまで本業の方でやるという事で…)。なので機器交換や問い合わせの権利を利用しないと損という事ではなく必要枠として割り切ってしまった方が良いでしょう。

とは言え、かかるものはかかるので対象機器の精査や適切な保守内容で契約し、費用の削減が必要な場合もあるでしょう。

②保守費用の変動がある

これは契約更新時の話です。保守ベンダーの価格改定や、外国メーカの場合は為替変動の影響を受けるため今年と来年で金額が変わるという事があります。そのため現行と同じ費用しか見込んでいないと金額が上がっていたという事もあるので注意です。

ただし、2倍、3倍になるだとかそういったレンジではないのでそこまで身構える内容でもないでしょう。

③利用してみないと保守ベンダーの良し悪しは分からない

例えば問い合わせをしても保守ベンダーのナレッジやスキルが乏しい(この場合は保守ベンダーからメーカへさらにエスカレーションするため時間がかかる)、そもそも対応が遅い、回答が不明瞭で分かりにくい、問い合わせ用WEBサイトが使いにくい等々本当に様々です。

機器やソフトウェアであればどこから買っても同じですが、保守のレベルは保守ベンダーによって様々です。特に人が対応している部分は実際に利用してみないとレベル感は分からないというのは契約する身としてはネックです。

一部は窓口担当者個人レベルの問題もありますが、保守ベンダーによっては問い合わせケース毎にアンケートを取り窓口の品質向上に努める会社もあり、個人の問題ではなく会社全体の仕組みや姿勢として評価すべきでしょう。

あまりにもひどい場合は、別の保守ベンダーへの移管も検討する必要があるので通常は、信頼できる保守ベンダーを見つけたらそこに纏めてしまうのが楽ですし安心です。

まとめ

ポイント
  • 保守は事前に契約が必要

  • 保守でできること

    • 故障時の機器交換

      • 代替機器購入の突発的な支出を抑制可能

      • 早期復旧が可能

  • 問い合わせ対応

    • 機器詳細仕様の確認

    • 類似事例の照会

    • 切り分け方法のアドバイス

    • ログの解析

  • 保守のデメリット

    • 毎年費用が発生する

    • 保守費用の変動がある

    • 利用してみないと保守ベンダーの良し悪しは分からない

今回はネットワーク機器の保守の基本的な内容をまとめました。あまり重要でない機器や古い機器を除けば大体の機器は何かしらの保守に入っています。保守契約を結ぶという事は顧客にその分のコストを払ってもらうことになります。有事の際はそのコストに見合うだけのリターンを顧客が得られるようにしっかり活用して欲しいですし、エンジニアとしても深い経験を積めるチャンスでもあります(大体トラブった時に問い合わせたり切り分けで苦労した経験でエンジニアは成長します^^;)。まずは保守でできることを把握し、顧客に対して何を提供しているか理解するところから始められればと思います。